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大阪高等裁判所 昭和33年(ネ)259号 判決 1958年12月19日

控訴人 豊福鶴蔵

被控訴人 大島金得

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人の負担とする。」との判決を被控訴人訴訟代理人は主文と同旨の判決を求めた。

被控訴人訴訟代理人の事実上の主張書証の提出は「本件(ロ)の手形の満期は昭和三〇年一月三〇日である。被控訴人は訴外大橋伊太郎から同手形を交付譲渡を受けたものである。」と訂正補述し、なお「控訴人の抗弁は故意又は重過失により時機に後れて提出されたものであり、本訴の完結を遅延せしめるものであるから却下されるべきである。仮にそうでないにしてもその抗弁事実は否認する。」と附述した他は原判決事実摘示と同一であるから、ここに援用する。

控訴人は答弁として、「被控訴人の主張事実はすべて認める。本件(イ)の手形は控訴人において訴外山田某が被控訴人から金借するに際し仲介した関係上同訴外人が右債務を不履行した場合のための保証の趣旨で振出したものであるから、被控訴人は先づ右山田に対し貸金債権の催告をしその効のないとき初めて控訴人に請求すべきであるのに右手段を踏まずしてなす本訴請求は失当である。本件(ロ)の手形については被控訴人はその支払に充当すべく控訴人諒承の下にその所有のオーバー、時計等時価二〇、三〇〇円相当の商品を持帰つているから、その代金額は当然右手形金の内入として差引相殺されるべきである。」と述べ、証人豊福クニヱの証言を援用し、甲第一、二号証の成立を認めた。

理由

控訴人が被控訴人主張の二通の手形を振出し、被控訴人が(ロ)の手形を受取人大橋伊太郎から交付譲渡を受けてその所持人となつたこと、(イ)の手形が取立委任裏書を受けた尼崎信用金庫によつて昭和二九年一一月一七日(満期の翌々日)支払場所に呈示されたが不渡となつたことは当事者間に争がない。

よつて控訴人の抗弁につき考えるのに、被控訴人は右抗弁は時機に後れて提出したと主張し、当審において初めて右のような抗弁を出すのは時機に後れた感がないでないが、本訴完結をさして遅延せしめると見られないので、強いて却下するには当らない。そこで先づ(イ)の手形の抗弁につき考察するのに同手形が訴外山田某の被控訴人に対する一五万円の借用金債務の担保のために振出されたものであることは証人豊福クニヱの証言から推認できぬことはないけれども、そのような手形は、一般に民法上の保証人の責任とは異り、手形外の被担保債務につき先づ支払の催告をせねば請求できないものではなく、満期が到来した以上支払を求めうるものと解されるところ、本件手形の振出については控訴人主張のような山田の責任を先づ問うた上でなければ支払の義務を負わないという特約のなされたことを認むべき証拠はないから、右抗弁は理由がない。

次に(ロ)の手形につき果して控訴人主張のような物品代金による内入がなされたかにつき案ずるのに、証人豊福クニヱの証言によれば、被控訴人が控訴人所有の婦人用オーバー一着を昭和三〇年頃、又同眼鏡、パイプ鳩時計を昭和三一年暮頃、控訴人に対する債権の「かた」として持帰つたこと、しかしその際持帰る商品を幾何に見積るかについては当事者間に何等の話合いもなかつたことは認められるが、それが控訴人主張のような内入弁済であるとか或はその代金額をもつて本件手形金と相殺すべきものと認むべき証拠はなく、むしろ右認定のいきさつに徴すれば、右物件は当事者間の債権関係の単なる担保(質物)として持帰らされたものと解するのが相当である。

よつて控訴人は被控訴人に対し本件手形金合計二七万円と(イ)の手形金一五万円に対する満期後である昭和二九年一一月一八日から又(ロ)の手形金一二万円に対する本件訴状送達日の翌日であること記録上明かな(それは又満期後でもある)昭和三二年八月一一日以降いずれも手形法所定年六分の率による利息を支払う義務があるから、この請求を認容した原判決は相当で、本件控訴は理由がないので棄却すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 大野美稲 石井末一 喜多勝)

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